100分de名著 カール・マルクス『資本論』 2021年12月 読者メモ

人類へ与えた影響の大きさは最大級の名著、「資本論」です。資本主義は構造的な欠陥を抱えている、それを克服するためには、まず資本主義とは何なのかを明らかにしなければならない。そういった考えで書かれた本です。

今回の解説を担当した斉藤幸平さんは、マルクス研究界で最高峰の賞であるドイッチャー記念賞を史上最年少、日本人で受賞した気鋭の研究者です。

現在、マルクス・エンゲルス全集、通称MEGA(メガ)の刊行が進行中です。編纂過程でマルクスがどのようなことに関心を持っていたのかが新たに明らかになり、これまでとは異なった視点でマルクスが再評価されています。

この本では特に、マルクスが環境問題に対してどのような考えを持っていたのかについて焦点を当てています。

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本の前半は一般的な資本論の解説で、商品、使用価値と価値、搾取についてなどについて触れています。

資本主義は世界の全てのものを商品として扱い、ここの商品には共通の尺度である価値を付ける。この価値はそのものが持つ使用価値とは関係が無い。

労働者は1日の労働で日給以上の価値を生み出しているため、生み出した価値と日給の差額分だけ資本家に搾取されている。

などなど、この辺は新規の発見はありませんでした。

構想と実行の分離

この本の中で最も面白いと思いました。労働の工程を、構想と実行の二つに分けて考えます。構想は労働者の中から選抜した現場監督に任せ、実行はその他の労働者を厳格に管理しながら行わせます。

本の中では土鍋の製造を例にして説明されていました。資本主義以前では土鍋を作ろうとすると、土鍋職人に一任しなければなりません。どのような土鍋を作るのか、製造法はどうするのか、どのくらいの時間をかけるのか、資本家が決めることはできません。

一方、資本主義では土鍋のデザイン、納期を資本家が決定します。現場監督が製造工程を細かく分け、各労働者は土鍋製造のごく一部のみを延々と担当し続けます。

資本主義のやり方では大量製造が可能で、納期やクオリティもコントロールしやすいです。その代償として、土鍋を作ることのできる労働者はいなくなってしまいます。このようにして、労働者の誇りとやり甲斐が失われ、代替可能な存在となっていきます。これは構想を担当している現場監督でも同じです。

環境問題

おそらくこの本で最も大事な論点だったと思うのですが、個人的には消化不良に感じました。

資本主義世界で人類が自然から搾取している、つまり環境を破壊している事をマルクスが問題視しているのはよく分かりました。しかし、マルクスがこの問題をどう解決しようとしていたのかが読み取れませんでした。ここは、今後MEGAの刊行が進むのを待つべきところかもしれません。

  • 自然に対しても所有者と価値を決めてしまい、共通資産(コモンズ)が失われてしまうこと

  • ゴミを海外で埋め立てるなどして国内の環境問題を解消(外部化)しているが地球は有限であること

などを問題としており、資本主義でいう価値以外の尺度のその代案や既に進んでいる取り組みも紹介されています。我々の中に環境を守りたいという思いがあるのは確かですが、一方で富への欲求や自己顕示欲も強力です。それらと、どのように折り合いをつけていくべきだとマルクスが考えていたのか、今後の研究の進展に期待したいところです。